地下水の起源解明

目に見えない水資源『地下水』

 「地下水はどこから来ているのか?」こういった疑問を持つ方は多いのではないでしょうか?地下水は目に見えない地下を流動する水資源です。この地下水の起源や流動メカニズムを解明することは、地下水の歴史を紐解くことと言えます。地下水の歴史を紐解くことで、汚染対策や枯渇対策、安定的な利用などに繋がるため、地下水の起源や流動メカニズムの解明はとても重要な研究分野といえます。

地下水の起源や流動メカニズムの解明

 こうした地下水の起源や流動メカニズム解明を進めるためには、専門的な知識や分析方法が必要になります。当研究室では、地下水の<涵養~流動~湧出>に至る一連の流動メカニズムの解明に向けたアプローチが可能です。具体的には、
①安定同位体比による涵養域の推定
②溶存イオンの特徴による流動経路の推定
③溶存ガス(CFCsやSF6)分析による年代推定
といった水文学的な調査手法の適用が必要と言えます。

①安定同位体比による涵養域の推定

 水分子(H2O)は水素2原子と酸素1原子からなります。そして、水素には2つの安定同位体(1H・2H)が、酸素には3つの安定同位体(16O・17O・18O)が存在しています。水素と酸素の安定同位体において、その存在比で圧倒的No.1は1Hと16Oです。つまり、ほとんどの水の構成は<1H・1H・16O>になり、質量数は18です。
 一方で、わずかな組み合わせとして考えられるのは、<1H・2H・16O>もしくは<1H・1H・18O>です(17Oの存在比は超絶小さいため無視します)。こうしたわずかな組み合わせの水の質量数は19や20になります。
 つまり、ほとんどの水の質量数が18なのに対し、わずかな組み合わせの水の質量数は19や20で、質量数が大きくなります。我々は、こうした質量数の違いを踏まえ、ほとんどの水を「軽い水」、わずかな組み合わせの水を「重い水」と呼びます。
※難しい言葉で言うと、安定同位体比が低い=「軽い水」、高い=「重い水」となります

 実は標高の低い地域では相対的に「重い水」の割合が、高い標高にいけばいくほど「軽い水」の割合が多くなる特性があるのですが、現代の分析技術で、こうしたわずかな重さを精密に測定できるようになりました。
 そのため、100m上昇するとどのくらい「軽い水」が増えるか、といった地域特性を踏まえ、測定した地下水の重さ(≒安定同位体比)から、地下水の起源標高を推定することができます。もし標高の低い場所に湧き出す湧水の安定同位体比を測定した結果、「軽い水」が多く含まれていれば、その湧水は高い標高が起源であると推測され、長い流動メカニズムを有していることが想像できるのです。

②溶存イオンの特徴による流動経路の推定

 地下水は普通、降水が供給源です。降水が地下に浸透し流動する過程で、どんどん付加される主要溶存イオンで構成されています。
 そのため、溶存イオン成分の特徴を基に、地下水はどこを流れてきたのか?人為的な影響を受けているのか?などを推測することができます。
 主要溶存イオンは8項目の陽イオンと陰イオンからなり、ナトリウム(Na+)、カリウム(K+)、カルシウム(Ca2+)、マグネシウム(Mg2+)の陽イオン4項目と、重炭酸(HCO3-)、塩素(Cl-)、硫酸(SO42-)、硝酸(NO3-)の陰イオン4項目です。
 分析された水試料の水質特性は、水質成分項目の濃度の多少や比較による特徴から把握されます。また、多地点の分析結果の数値を互いに比較するのは困難な場合があるため、直感的に水質特性を把握するために図形化して示される場合があります。その図の1つがスティフダイアグラムです。
 スティフダイアグラムは、下図に示したように中央の軸を0として、左側に上から順に陽イオンのNa+K、Ca、Mgイオンの3成分の各当量濃度を、右側に同じく陰イオンのCl、HCO3、SO4+NO3イオンの3成分の各当量濃度を、中央軸からの長さで対応するように示したものです。それぞれの成分量の値を結んだ六角形の図形の大きさ(面積)は、おおおその溶存量の多少を表しています。そして、この六角形の形状は、循環性の早い地下水/遅い地下水、火山性の影響、海水の影響等の地下水の状態を反映していることから、複数地点のスティフダイアグラムの大きさや形状を直感的に比較検討することで、地域の水質特性を把握することができます。


 例えば、我が家の地下水と、その周辺地域の地下水を採水し溶存イオンを分析し、その特徴(スティフダイアグラムの形状)を考察した時に、我が家の地下水と類似したスティフダイアグラムが、近くの山まで続くように分布していれば、我が家の地下水の流動経路は近くの山がスタート地点だと想像できるのです。
 また、もしCaイオン濃度が高ければ石灰岩地帯を流動してきた、とか、SO4イオン濃度が高ければ火山の影響を受けた地下水だ、などと考察できます。

③溶存ガス(CFCsやSF6)分析による年代推定

これについては別ページで詳しく解説していますので、以下のリンク先をご覧ください。→地下水の年齢とは?

 

ひとこと

 このページでは、目に見えない水資源である『地下水』の歴史をどのような手法を用いて紐解いていくのかを解説しました。難しい部分もあったかと思いますが、なんとなくイメージできたのでしたら幸いです。
 私の研究室では、地下水の一連の流動メカニズムの解明に向けたアプローチ(上述の①~③)が可能です。もし興味がありましたら、お気軽にご相談ください。
 地下水の分析装置は高価で、日々のメンテナンスや故障などに備え研究費が必要になります。また、水の分析手法は日々進化しており、研究室の研究環境を継続的に整える必要があるため、もしこうした研究にご賛同・ご協力いただける方は、研究寄付金等の形でサポートいただければ幸いです。